エヴァンジェリーンはその日、夢を見たといった。
「貴方が妊娠する夢を」
彼女はポツリと呟いて、僕が焼いたパンケーキに優雅な手つきでフォークを刺した。
滴るジャムが急にグロテスクなものに思えて、僕はげえ、と単純な感想を漏らす。
「気持ち悪い」
「あら、貴方子供好きだから、喜ぶかと思った」
「君の妊娠なら喜ぶよ」
僕が妊娠してもな。膨らんだ自分の腹を想像したら、気持ち悪くて吐きそうになる。
たとえそれが君との子でも、僕は腹に赤ん坊入れながら君の世話は出来ないよ。
ベッドの中で読書にふける君と、君の周りをグルグル回って掃除する妊娠3ヶ月の僕。
グロテスク過ぎる。
「技術的に不可能ではないのよ」
彼女はベッドの上に投げ出した両膝の上に一度パンケーキの皿をおいてから、手元に落ちていた本の表紙に目を落として言う。
「生物学」、「倫理学」、「生命医学」、「生態機能学」、「生命理論学」…。
そう、理論上はそうでも、精神的に、君は相当ヤバイことを美しい顔で平然と言ってる。
僕は彼女の唇に小さくキスをして、それから彼女の手を握った。
「そういう場合、君はママになるのか?それともパパか?」
「母親じゃないかしら。生別が変わるわけではないから」
彼女はいとも簡単に、あっさりとした声で俺に告げる。
ねえ、エヴァンジェリーン、君は子供が苦手だと、ずいぶん前から僕に言っていたよね。
「僕が子供を産んだら、君は母親になるのか」
声に出せば余計、ずいぶんと、変な感じだけど。
「理論上はそうなるわ」
ベッドの上に食べかけのパンケーキ。
うずたかく積まれた古書の山。
ここを這いずりまわる小さな生き物。
「理論上はね」
理論上はそうでも、僕たちが親になるなんてきっと無理な話だ。
君は自分を愛するので精一杯。僕はそんな君を愛するので精一杯。
僕が妊娠したとして、君は興味も持たないだろうから。
パンケーキを膝の上で切り分ける彼女の白いワンピースに染みがつかないことを祈りながら、僕はエヴァンジェリーンに聞いた。
「その後僕はどうなったの?」
「私が針でポンとつついて、貴方のお腹が破裂した」
ごちそうさま、と彼女は短くいい、枕に背を預けると古書の山の一部になっていた本を掴んで表紙をめくった。
僕はゆるやかな溜息とともに食器を持ってベッドから腰を上げる。
なるほど、まさに君の夢にふさわしい、グロテスクで現実的な凄惨たる最後だね。
皿の上に残ったラズベリージャムは、彼女のお気に召さなかったらしかった。
「貴方が妊娠する夢を」
彼女はポツリと呟いて、僕が焼いたパンケーキに優雅な手つきでフォークを刺した。
滴るジャムが急にグロテスクなものに思えて、僕はげえ、と単純な感想を漏らす。
「気持ち悪い」
「あら、貴方子供好きだから、喜ぶかと思った」
「君の妊娠なら喜ぶよ」
僕が妊娠してもな。膨らんだ自分の腹を想像したら、気持ち悪くて吐きそうになる。
たとえそれが君との子でも、僕は腹に赤ん坊入れながら君の世話は出来ないよ。
ベッドの中で読書にふける君と、君の周りをグルグル回って掃除する妊娠3ヶ月の僕。
グロテスク過ぎる。
「技術的に不可能ではないのよ」
彼女はベッドの上に投げ出した両膝の上に一度パンケーキの皿をおいてから、手元に落ちていた本の表紙に目を落として言う。
「生物学」、「倫理学」、「生命医学」、「生態機能学」、「生命理論学」…。
そう、理論上はそうでも、精神的に、君は相当ヤバイことを美しい顔で平然と言ってる。
僕は彼女の唇に小さくキスをして、それから彼女の手を握った。
「そういう場合、君はママになるのか?それともパパか?」
「母親じゃないかしら。生別が変わるわけではないから」
彼女はいとも簡単に、あっさりとした声で俺に告げる。
ねえ、エヴァンジェリーン、君は子供が苦手だと、ずいぶん前から僕に言っていたよね。
「僕が子供を産んだら、君は母親になるのか」
声に出せば余計、ずいぶんと、変な感じだけど。
「理論上はそうなるわ」
ベッドの上に食べかけのパンケーキ。
うずたかく積まれた古書の山。
ここを這いずりまわる小さな生き物。
「理論上はね」
理論上はそうでも、僕たちが親になるなんてきっと無理な話だ。
君は自分を愛するので精一杯。僕はそんな君を愛するので精一杯。
僕が妊娠したとして、君は興味も持たないだろうから。
パンケーキを膝の上で切り分ける彼女の白いワンピースに染みがつかないことを祈りながら、僕はエヴァンジェリーンに聞いた。
「その後僕はどうなったの?」
「私が針でポンとつついて、貴方のお腹が破裂した」
ごちそうさま、と彼女は短くいい、枕に背を預けると古書の山の一部になっていた本を掴んで表紙をめくった。
僕はゆるやかな溜息とともに食器を持ってベッドから腰を上げる。
なるほど、まさに君の夢にふさわしい、グロテスクで現実的な凄惨たる最後だね。
皿の上に残ったラズベリージャムは、彼女のお気に召さなかったらしかった。
2014/02/11(Tue)
ADMIN