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  <title>Cack handed</title>
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  <description>でも、僕は不器用だったんだ。</description>
  <lastBuildDate>Mon, 06 Jan 2025 18:48:07 GMT</lastBuildDate>
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    <title>自転車のうしろ</title>
    <description>
    <![CDATA[空気入れが壊れているのかもしれない、と鯉壱は思った。一生懸命レバーを押しても、ぷしゅう、と腑抜けた音がずっとしているのは、もしかしたら、自転車のタイヤに穴が空いているんじゃなくて空気入れの方が壊れているんじゃないかと。「こっちが壊れてるんじゃなあい？」と呟けば、タイヤを触っていた蜂散が、黄緑色の瞳で鯉壱の方を見た。<br />
<br />
　物置の中で埃をかぶっていた赤い自転車は、鯉壱が水槽の底に来たばかりの頃にみかみがどこからか持って来たものだった。その頃鯉壱は体を動かすのが好きではなかったので、ずっとしまいっぱなしになっていたのだ。家の中でじっとしていた鯉壱に、みかみは「太陽の下で遊ばないと、紫色のキノコが生えちゃうぞ」とよく言っていたが、鯉壱が見るところ、日陰に封印されていた自転車にキノコは生えていなかった。「あの頃は」と鯉壱は呟く。「ママがいなくなったばっかで、僕グレてたんだよ」。<br />
<br />
　「グレてたのか」、と鯉壱のぼやきを聞いた蜂散は笑いながら繰り返す。彼は自転車のそばにしゃがみ込んで、タイヤやらサドルやらブレーキやらを確認しているところだった。いつもの白い手袋を外し、あちこち汚れて黒くなった彼の手を何とは無しに眺めながら、鯉壱は「うん」、と短く返事をする。タイヤに異常があるわけではなく、空気入れに問題があることがわかると、蜂散は立ち上がり、錆びたサドルをバコン、と叩いた。カビ臭い匂いとともに埃が広がるのを見て、鯉壱は顔をしかめる。蜂散は眉を上げながら、短く、「乗れんじゃない」と結論づけた。「ほんとに？」訝しげに鯉壱は言う。「僕が乗ったら壊れない？」<br />
<br />
　「空気は抜けてるけど、あとは大丈夫。ほんとに全然乗らなかったんだな」チリン、と小気味良くベルを鳴らして蜂散は言う。感嘆と呆れの混じった、ちょっと楽しそうな声色に、鯉壱は「乗らなかったんだよ」とわざと繰り返した。「グレてたからね」と蜂散はまた眉を上げて楽しそうに笑う。何が楽しいのかよくわからないけど、なんだかちょっと癪に触る感じだ、と鯉壱は思った。「それとも、乗らなかったんじゃなくて、乗れなかったのかなァ」ニヤニヤと、ハンドルを揺らしながら蜂散が笑ったので、ハチコのそう言うところがたまにちょっとムカつく、と鯉壱はもう一度思った。僕をバカにしてる。僕より運動神経がいいからって。「僕、乗れるよ」と口に出せば、思ったより強めな声が出る。ムキになる鯉壱の声を聞いて、蜂散は、今度は屈託のない穏やかな笑顔で、「見せて」と微笑んだ。<br />
<br />
＊＊＊<br />
<br />
「ちゃんと持っててよ」「ハァーイ」後ろ側からのんびり響く蜂散の気の抜けた声に、鯉壱はちょっと不安になる。なにせ自転車に乗るのなんて初めてだ。蜂散に錆びついたサドルを一番下まで下げてもらっても、鯉壱の足はペダルを漕ぐのにやっと届くくらいだった。みかみも、どうせくれるならマダラカガ用の小さい自転車にしてくれればよかったんだ、と鯉壱は思う。神様なのに、なんかそういうところは抜けてる。みかみ、元気かな。どこで何をしてるんだろう。どっかで僕みたいに、試練に直面して、困ってないかな。<br />
<br />
「ゆっくりな、急に漕いだらコケるかも。空気抜けてるし」「抜けてるのに走って大丈夫なの？」「平気だろ、ちょっとだけなら」<br />
自転車を支えてくれているとはいえ、蜂散は相変わらず適当だ。せめて後ろを持ってくれてるのが緑露ちゃんだったら、と思わないでもないが、でも、乗れるって言っちゃったしな。後悔し始めたらきりがない。水槽の底は舗装されたアスファルトの道なんてないし、なんなら草だらけだし、すぐそばに池もある。ガタガタの道を行かなきゃいけない。マダラカガは赤い自転車に乗って、転ぶかもしれない恐怖と戦いながら、でも、一人で。<br />
<br />
「ゆっくりでいいから、最初の一歩を強めに漕げ」すぐ後ろから蜂散の声がして、鯉壱は彼の方を見た。白と黒の癖っ毛の隙間から黄緑の瞳が光る。ドキッとして下がった鯉壱の眉毛に、きっと蜂散は気づいていない。「僕、できるかな」「できるさ。みんな、最初が一番怖い」「みんな？」「そうだよ」微笑む蜂散のギザギザの歯に、鯉壱は視線が釘付けになる。ハチコはさ、怖いことなんか、何にもなさそうな顔してるのに。<br />
<br />
「踏み込んで前に進んでる間に、もう一歩前に足を出せ。その繰り返し。オーケー？」<br />
「うん、でも、持っててよ」<br />
「持ってるよ」<br />
<br />
何度も何度も念を押せば、蜂散はすぐ隣で、素直に頷いた。<br />
ずるいよなあ、と鯉壱は思う。簡単そうに言うんだもん。僕は心臓がドキドキしてるのに。<br />
<br />
「ちゃんと持ってる」<br />
「離しちゃダメだからね」<br />
「わかったよ」<br />
<br />
相変わらず楽しそうな声で、蜂散は言った。<br />
しかたない。もうここまできたらやるしかない。<br />
鯉壱は前を向いて、深呼吸をひとつした。]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/399/</link>
    <pubDate>Fri, 12 Oct 2018 07:07:44 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>大変な1日</title>
    <description>
    <![CDATA[今日は元気がないね、と、顔を覗き込んでくる鯉壱が楽しそうににやにやしたのを横目で見て、俺はなんとなく釣られて笑った。 <br />
　彼は今日1日、クッキーを探したり、トウモロコシの皮を剥いたり、庭のミントを摘んだり、レモネードを作ったりして忙しくうろちょろしていて、ようやくひと段落ついたのかテーブルに向かうと突っ伏したままの俺に声をかけてきたところ。細々した作業を俺が手伝おうとするのを、いちいち、いいんだよ！と制し続けた彼は、ようやく俺の様子を気にする余裕ができたのか、俺に慰めの言葉をかけてからこっちをじっと見た。鯉壱が張り切ってるの、ここで見守ってたんだよ。顔だけそっちに向けてもごもごと口を動かしたら、鯉壱は俺の真似をしてテーブルに頬をくっつけた。俺の目の前でむに、と柔らかく形を変えるマダラカガの頬。可愛い奴め。 <br />
<br />
「僕、いろいろできるでしょ」 <br />
<br />
　えへへ、と鯉壱が誇らしげに笑う理由はなんとなくわかる。今日は特別なのだ。なぜなら緑露がいないから。普段、この小さいマダラカガは、自由気ままにクレヨンを握ったり笛を吹いたり庭に出て池に足を突っ込んでみたりしているけど、今日は朝早くから「やることリスト」を片手に握りしめ、そして課されたタスクを着々とこなしている。トウモロコシもミントもレモネードもそうだ。ひとつ終わったら、達成感があるのか、リストにいちいちチェックを入れていく。かわいいね。そして偉い。俺はそういうのを今日1日ずっと眺めていた。いいことだ。気持ちいいよな、ひとつひとつ、何かを片付けていくのって。 <br />
<br />
　緑露は年に一度の里帰りに出かけている。彼女の「お里」については、はっきり言って謎だ。特定の家族がいるわけでもないし、生まれた場所があるわけでもないそうだ。ポフがどこからきてどこへいくのか&hellip;あまり多くのことは知られていない。あんなにでかいのに、俺は他に緑露みたいなポフを見たこともない。だが緑露は、「みな、そこそこに大きくなる」という。年に一度、ポフたちは「里帰り」と称してどこかへ集まり、「たわいもない世間話」と称した緻密な情報交換をするらしい。緑露くらい経験豊富なポフたちが各地から集まって、その時間を有益に使うのならば、もはやそれは軽い首脳国会議みたいなもんになりそうだけど。俺はくだらない妄想を頭に浮かべながら緑露の姿を思い出す。あんなにでかいのに、とは言っても、彼女だって１６かそこらの子供なんだから、本当に「たわいもない世間話」がメインかもな。 <br />
<br />
　俺は緑露からその話を聞いた時から、こうなるだろうことはなんとなく察していた。鯉壱は普段は緑露に何もかもを頼りっきりで、こういう日々の暮らしを豊かに過ごすためのお仕事についてはまるで手をつけてこなかった。いわゆる家事って奴のかけらを、鯉壱は今日、少しずつ堪能したわけだ。緑露ちゃんがいないから今日は僕がやらなきゃ、という使命感めいた気持ちなのかもしれないし、やってみたら意外と楽しいなあ、という５歳児並みのゆるい感情でこなしたのかもしれない。しかしどちらにしろ、鯉壱は終始にこにこしている。今、俺の目の前にいる間もだ。鯉壱はやればできる子だ。そう、誰かがきちんとサポートさえしてあげればね。 <br />
<br />
「僕、けっこう今日頑張ってるよ」 <br />
<br />
　にこにこしながら、鯉壱は言う。自己申告して来るところが本当に可愛い。18歳とは思えない純真さ。俺は体を起こして、改めて鯉壱を眺めた。服には所々濡れたような染みを作っているけど、いまのところ怪我はしてない。不器用な鯉壱にしては上出来だ。俺の仕事も上出来。緑露から頼まれたのはたった一つ、「怪我だけ気をつけてくださいね」。今の所は大丈夫です、緑露さん。そう、今のところは。 <br />
<br />
　午前中のうちにすっかりわかったことだが、鯉壱はやることはやるが、やったらやりっぱなしで次の任務に移ってしまう。例えば剥いたトウモロコシの葉をあちこちに放置するとか、剥いた方だって適当に机の上に積んでおくとか、そういう具合で。「僕一人でできるから」と俺の手伝いを一切受け付けようとしない鯉壱が作ったもさもさの葉っぱの山を片付けたのは俺だ。ミントを積みにでかけた鯉壱のあとを追いかけたら、マダラカガがおやつにアイスを食べながら作業したのかあちこちアイスの雫が落ちまくっているし、これまたなぜか泥まみれで放り出されていたバケツや軍手やその他の道具を、洗い流して片付けて、綺麗にしたのも俺だ。キッチンに向かった鯉壱を追いかけて、レモネードを作るための計量カップを取ろうと脚立の上で危なっかしくも一生懸命に手を伸ばしている彼を慌てて支えたのも俺だ。ついでに言えば、鯉壱は手にしたその計量カップを、俺の頭の上に落とした。 <br />
<br />
頑張ってる。鯉壱も、俺も。 <br />
<br />
「ハチコ大丈夫？」 <br />
<br />
疲れた？、と声色を落とす鯉壱に、いいんだよ、と微笑み返す。だって鯉壱も頑張ってるもんな。 <br />
<br />
「食器洗っちゃおっかな？」 <br />
「無理しないで～」 <br />
「無理じゃないよ」 <br />
<br />
立ち上がって、水槽の底のちいさな王様はキッチンへ向かう。ママはいつも鼻歌を歌ってたんだよ、ってぼやきながら鯉壱はさっと包丁を取り上げて目を輝かせた。僕の歌聴きたい？　俺は返事の代わりに小さくうなずいた。立ち上がって包丁を取り上げることもできたけど、まあそれは、マダラカガの自尊心を育てるのにはよくないかもしれないからとりあえず座ったまま。ただ鯉壱がいつもより２つくらい高い声で歌を歌い出したとき、やっぱり自然とため息が出た。疲れてるとか、呆れてるわけじゃないぜ。ただちょっと、こういうのもたまにはいいかなって思ったらなんとなくため息になった。鯉壱、はやく包丁を置いて。俺の祈りは通じず、鯉壱は楽しそうに歌っている。だから俺もただくるくる回るマダラカガを眺めるだけにした。それがいい。 <br />
緑露が早く帰ってくるのが、まあ、一番いいけどね。]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/398/</link>
    <pubDate>Thu, 05 Jul 2018 08:53:17 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>コミニュケーション</title>
    <description>
    <![CDATA[「子供が傷だらけになってたらびっくりするでしょ。転んだのかもしれないし、誰かに殴られたかも。"どうしたの？"って聞くでしょ。それが心配。なんでもないよって言われたら、答えてくれない理由が知りたくなるでしょ。それが不安。"守ってあげたいだけなのに、どうして教えてくれないの？"って。でもその子は自分が怪我したことも知らないし、ちくちくのいばらの森に突っ込んでいくことが、自分を強くする唯一の道だと信じきってる。だから、別にこれは普通のことだ、みんないばらに突っ込んで強くなるのだから、自分もそうやって強くなるんだ、って思ってる。なんでもないんだ。本当に」<br />
「もし、"どうしたの？"って聞かれたときに、"いばらの道に突っ込んだんだよ"、って言ったら、例えばハチコだったら、"なんでつっこんだの？"って僕に聞くかもね。"強くなるためだよ。みんなやってるからね"。そこでハチコは"なるほどね&hellip;"。それから"強くなれればいいの？"。ハチコは大人だから、いばらにつっこまないでも強くなれる方法を知ってるんだ。隣町までいけば先生がいるとか、橋を渡っていけば安全だとかね。それにハチコは&hellip;すごくラッキーなことに、お助けキャラなんだ。どうしてもいばらの道が行きたければ、"仕方ない、これを持って行きなよ"って剣をくれる。"鯉壱は言ったって聞かないからな、俺もついていくよ"って言うかもね。それが相談っていうこと。でも僕は強くなるために一人で行きたいんだ。"僕一回試してみたいから、もし僕が失敗して帰ってきたらその時はついてきて"、とかね。これが意思疎通。コミュニケーション。ハチコは&rdquo;わかった、じゃあここで待ってるよ。ところで晩御飯は何がいい？"。僕は、"オムライス！"って言う。今日のいばらの道をがんばれば、オムライスが手に入る仕組み。ハチコはそういう、今まで説明した&hellip;そういう単純な会話を引き出すのが上手い。最初の、"どうしたの？"って聞くところが上手いんだ」<br />
「話せないことは悪いことじゃない。全然悪いことじゃない。でも打ち明けたいのにできなかったりすることもあるでしょ。そういうことは、環境が整えば話せるようになることがある。環境というのは、話してもいいかな、と思えるくらい信頼できる人が、話しやすい雰囲気で、話してもいいタイミングで、話しかけてくれることだ。聞きだすのは逆効果だったりするし。ようは聞く側の問題なんだ。高度だよね、聞く側って。だから、"聞くことこそが愛だ"っていう人もいる。僕はハチコに会ってからすごく自然にいろんなことを話せるようになったよ。ハチコって&hellip;ぜんぜんモンスターっぽくないしそれに&hellip;ヘタレの弱虫だもん」]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/394/</link>
    <pubDate>Mon, 12 Feb 2018 21:36:17 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>ツユキくんのお店がファット・ダックみたいになったら</title>
    <description>
    <![CDATA[「ねぇハチコ」「なんだい鯉壱くん」「ツユキくんのカフェがもし大盛況したらどうする？」「大盛況？今も朝は結構混んでるよ」「そうじゃなくて、ツユキくんの才能が突然開花して、パトロンがついて、ファット・ダックみたいな超有名レストランになって、予約は1年半年待ちで、ツユキくんは忙しすぎてハチコには一切構ってもらえなくなったらどうする？」「つらい」「僕はすぐ予約する。ハチコは？」「俺も予約する〜〜！！」<br />
<br />
「ハイ、ツユキくん？僕だよ、鯉壱。ハチコが泣いてて全然ダメなんだ。今日のディナーは何時まで？その後に行っても良いかな？僕らツユキくんにすっごく会いたいんだ。一年半も会えないなんて寂しいよ。10時ごろには店に行けると思う。会えるといいな。またあとで。じゃあね。がちゃん。忙しくて電話は録音になってるから留守電を入れたんだよ」「いちいちイケメン度が高いんだよな〜〜」「ツユキくんは？えっと、鯉壱さんこんにちは、ツユキです。留守電ありがとうございます。さっき聞きました。それで、今夜のお誘いの件ですが、まだ店の片付けをしてる時間だから、ちょうど良いですよ。ぜひいらしてください。皆さんのために分子料理を作っておきます」「ウォン・カーウァイみたい」「あれは文通だけどね！」<br />
<br />
「電話をかけまくるシーンはあるよ」「ツユキ？ああ！よかった、俺だよハチル。君が働いてる新しい店を知りたくて、町中のカフェに電話をかけて、ツユキって子全部に繋いでもらってたんだ、見つかって本当に良かった！え？俺のこと知らない？そうか、君はツユキだけど俺が探してるツユキじゃないんだね&hellip;」「再現度が高くて泣きそう」 「うん、そうか&hellip;わかった&hellip;いや、こちらこそごめん&hellip;お仕事頑張って、ツユキ。&hellip;がちゃ。ため息。力なく受話器を置き、うなだれるハチル&hellip;」「ツユキ&hellip;どこにいるんだ&hellip;」「ラスベガス」「勝ちまくってそう〜〜」<br />
<br />
「ツユキは店の拡大とか考えてないよ、あの店をあの場所で守るのがツユキのやりたいことだから」「そうだけど、もしもの話！ツユキくんのコーヒー美味しいから、もっと成功しちゃうかもしれないよ、きっかけさえあれば。そしたら寂しい？」「う〜ん難しいな。ツユキが望むことは手伝ってやりたいよ」「本音は？」「さみしい！！！！」「僕も〜〜！！！」<br />
<br />
「でも僕らはいずれここを出て行くでしょ？ハチコはツユキくんと離れても平気？」「俺鯉壱と離れろって言われたら鯉壱を信じて送り出せるけど、ツユキは無理だな」「過保護だなあ、ツユキくん僕よりしっかりしてるのに」「そういうのじゃないんだよ、ツユキは」<br />
<br />
「ハチコ、僕を大事にしてくれるみたいに、ツユキくんも大事にしてあげてね」「もちろん」「僕はその間、クッキーを食べたり、ミルクティーに蜂蜜を入れたりする時、ハチコたちのことを思い出すよ」「俺も」「僕、ハチコが最初に水槽の底に来てくれて良かったと思ってるんだ。ありがとう」「なんだよ急に。鯉壱みたいなマダラカガ他にいないよ。お前は特別だ」「ハチコも特別だよ。だからきっと、ツユキくんのことも幸せにできるよ。意地悪しないで、優しくして、もしツユキくんのこと食べたくなったら、ちゃんと我慢してね」「うん、わかった」「それから、ツユキくんにいっぱいかわいいねって言ってあげて、抱きしめてあげて、朝はおはようと、夜はおやすみを言ってね。ハチコ朝喋んないから、トーストにバター塗ってもらったら、ありがとうっていうんだよ」「わかったよ」「それから&hellip;」「もういいよ鯉壱、鯉壱のことも大好きだよ。ありがとうな」<br />
<br />
「うええん」「なんで泣いてんだよ」「さみしいいい」「やめろよ急に、死ぬわけじゃないんだから&hellip;ミルクティー飲む？」「飲む〜〜〜」]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/393/</link>
    <pubDate>Tue, 05 Dec 2017 22:57:56 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ハロウィンのお菓子は美味しくない</title>
    <description>
    <![CDATA[血まみれの人がたくさんいた、と鯉壱は心底嬉しそうに笑って、ぱんぱんに膨らんだポケットから掴めるだけのお菓子を引っ張り出して見せた。小さな手から、紫やオレンジの包み紙のキャンディが溢れるのを見て「よかったなあ」と簡単な感想を漏らす。鯉壱はすっかり興奮していて俺の話を聞いていなかった。「白か黒か、あとは血まみれか、どれかだったよ。ハチコもくればよかったのに」と一気にまくし立てた後、手に持っていたジャックオランタンをようやくテーブルに置いて、俺を見る。 <br />
<br />
「ねぇモンスター」、と、鯉壱は頭からネジを引き抜きながら、俺の前に座り込んで言った。「マシュマロでもたべる？」 <br />
<br />
秋の次には何が来るか、僕はちゃんとわかってるよ。と、鯉壱は手の中からいくつか小さい包み紙を選んで、ひっくり返しながらそう言った。秋の次は冬が来る。僕らはいつもその前に、かぼちゃを育て、ディムベリーを植えて、ブラックパンを作り、羊毛をコケモモで染めてセーターを編んで、冬支度をする。リスだってどんぐりを集めてきて、あちこちにちゃんと蓄えておくんだ。はい、たぶんこれ全部マシュマロだと思う。 <br />
<br />
手渡された包み紙は銀色で、暖炉の炎を反射してオレンジ色に光っていた。 <br />
<br />
「リスは集めたどんぐりを無くすだろ」 <br />
「そこがリスの可愛いとこ」 <br />
<br />
マシュマロは好きじゃない、と言いそうになったけど、鯉壱が頭から抜いたネジを持ってソファーの上に上がってきたので黙っていた。暖炉の火が相変わらずゆらゆら揺れて、ぱちぱち木が爆ぜる音がする。 <br />
<br />
「次は何しよう」 <br />
<br />
ぽつりと鯉壱が呟いたのを、俺は重たい頭で聞いていた。二人で何かしようなんて、もう思うなよ。ちゃんとわかってるんだろ？ 　次の季節が来ることを。<br />
俺はちゃんと鯉壱の顔が見れなかった。だから、銀色の包み紙を破いて、真っ白いふわふわした食べ物を取り出して、鯉壱の口に入れた。鯉壱は鳥の雛みたいに黙ってそれをもぐもぐ食べて、空中を見つめた。 <br />
<br />
「冬が来る前に太れ。緑露の言うこと聞いて、いい子でいろよ。冬の次は春だ。わかってるだろ」 <br />
<br />
うん、と鯉壱は呟いた。きっと呟いた。声が小さ過ぎて、呟いたかどうかわからないくらいだったけど。 <br />
鯉壱はしばらく固まって、暖炉の炎を見つめていた。そのあと、もぞもぞと俺の手から銀色の包み紙を取り上げた。 <br />
<br />
「&hellip;マシュマロって、単体で普通に食べても美味しくないね」 <br />
<br />
同感だ、と俺は思った。思っただけで、言わなかった。浮かれてる間は気づかない。自分が何をしてるかなんて。<br />
その手に何を一生懸命集めてるか、リスはちゃんと自覚してるだろうか。わかってたら、きっと無くしたりしない。<br />
<br />
俺と鯉壱の手の中に、まだ大量に残っている銀色の包み紙が、オレンジの光を受けて輝いている。&nbsp;鯉壱は黙って、二つ目の包み紙を開けた。 <br />
<br />
]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/390/</link>
    <pubDate>Tue, 31 Oct 2017 16:47:12 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>プリンが食べたい</title>
    <description>
    <![CDATA[「もしかして、また夜更かししてる？」 <br />
<br />
鯉壱はニヤリと笑って、キッチンから顔をのぞかせた。生クリームの乗ったプリンを食べるまで寝ないぞ、と心の中で繰り返していた言葉は、彼の鮮やかなピンクが目に飛び込んできた瞬間に消えた。 <br />
<br />
「鯉壱」 <br />
「何してるの？」 <br />
「&hellip;プリンを探してた」 <br />
<br />
嘘じゃない。けど、口に出した瞬間に恥ずかしくなる。もう寝なきゃいけないのはわかってる。明日も仕事あるし。早いし。やることもまだ残ってる。だけど、プリンがないからさ。 <br />
<br />
「プリン？」 <br />
「昨日買っといたやつ。鯉壱知らない？」 <br />
「僕食べてないよ」 <br />
<br />
鯉壱はそう言って肩をすくめた。私はもう一度、両開きになっている冷蔵庫の扉をあけて、白々しい光を放つ箱の中に頭を突っ込んだ。1段目、2段目、3段目。入っているのは、空気だけ。 <br />
<br />
「ハチコが食べちゃったんじゃない？」 <br />
<br />
ちゃんと名前を書いておいた？と鯉壱。名前を書かないと食べられちゃうよ。 <br />
鯉壱はソファによいしょと座り、リラックスした感じで遠くから私をしげしげと眺めているところ。私は振り返って、鯉壱の方を見た。 <br />
<br />
「そんなルール知らない」 <br />
「ハチコが食べまくるから僕が決めたんだ」 <br />
<br />
私に黙って？ <br />
<br />
「蜂散さん、プリンとか食べる人だっけ」 <br />
「冬前だからじゃないかな？」 <br />
<br />
鯉壱はのんきにそう言って、手元にあったクッションをお腹の上に乗せた。 <br />
私は諦めて冷蔵庫を閉めた。ぱたん、と小さく音がした。それから少し間を置いて、いうかどうか迷ったけど、結局口を開いた。 <br />
<br />
「ハチコは食べてないと思う」 <br />
「どうして？」 <br />
「最近見てない」 <br />
「僕は昨日見た」 <br />
<br />
ざくり、と鯉壱の声が頭の奥にしみる。見てない。私は見ていない。蜂散さんだけじゃない。鯉壱もそう。私、最近あなたたちのことがよくわからない。なぜかもわからない。何をしてる？　私の意識が届かないところで。 <br />
鯉壱は尻尾をゆらりと揺らして、しっかりした口調でそう言った。 <br />
<br />
「冷蔵庫を探してた。君と同じように。夜更かししてた。いやだなって言ってたよ。何が嫌なのかはわからない。君と同じで秘密主義。何に悩んでるかも教えてくれない。僕が解決できないことなのかも。でも、ねぇ、大丈夫？　最近疲れてる。ハチコは元気じゃないみたい。君はどう？　まだ話せないの？」 <br />
<br />
鯉壱の口調は落ち着いていて、私は情けなくなった。 <br />
気持ちがしぼんで、なんだかやりきれなくなる。きっと夜だからだよね。夜更かししてるから。だからこんなに、不安なんだよね。そうなんだよね？ <br />
<br />
「わたし、」 <br />
<br />
口から小さく音が漏れる。頭の中はごちゃごちゃしてるのに、声にできるのはほんの少し。 <br />
限りない選択肢の中で、言葉にさえならない感情のうち、精一杯形にできたのはこれだけ。 <br />
<br />
「プリンが食べたかったのに」 <br />
<br />
鯉壱は何も言わない。私も何も言わない。プリンが食べたかった。プリンさえあれば。 <br />
気を紛らわせる何かがあれば。気持ちを切り替えて、明日からまた頑張ろって考える脳にさえなれば。アイテムはなんでもよかった。それさえできれば。 <br />
<br />
「生クリームが乗ったやつ」 <br />
<br />
食べたかったのに。やりたかったのに。一番になりたかったのに。 <br />
食べれなかった。やりたいこともしてない。一番にもなれなかった。 <br />
全然関係ないってわかってる。それでも悲しみと悲しみがくっついて、支離滅裂になった。 <br />
思うようにならない。何もかも。自分自身さえコントロールできないんだから、人なんて、当たり前だよ。 <br />
<br />
「泣くなよ、プリンぐらいで」 <br />
<br />
階段を登ってきた蜂散さんは、私がぽろぽろ泣いているのを見て空気が抜けたような声を出した。それから手に持ったビニール袋を私に手渡して、そのまま鯉壱の隣に座った。 <br />
<br />
「疲れてるねえ」 <br />
<br />
彼は笑ってそう言って、鯉壱に目配せした。 <br />
<br />
「プリンは手に入った。次はどうする？」]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/387/</link>
    <pubDate>Wed, 11 Oct 2017 15:29:46 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>テレパシーはない</title>
    <description>
    <![CDATA[「かわいそうになァ、大好きなのに、まるで大事なぬいぐるみだ」 <br />
「実際あいつにどこまで望んでる？」 <br />
<br />
「たまに会って、美味しいケーキとコーヒ、穏やかな午後、当たり障りのないおしゃべりと日常の共有、自分だけに向けられる笑顔、甘ったるいキス、今ここだけは、今この瞬間だけは、って。おしゃべりに疲れたら柔らかいベッドで眠って、暖かい毛布をかけられて、&rdquo;それじゃあおやすみ&rdquo;って？」 <br />
<br />
「それだけで満足？」 <br />
<br />
「実際頑張ってると思うよ。案外お前が強いのも俺は分かってるぜ」 <br />
「でも俺たちはモンスターだからさ」 <br />
「望むなら力づくじゃないと手に入らないよ。特にあいつは。わかるだろ？」 <br />
<br />
「あいつの彼女がどんな女か知ってる？　あいつのために人を殺した。あいつが一生ついていくって決めてた奴をさ。幼馴染だったよ。親友同士。一緒に育った奴をだぜ。イかれてる。でも一発だった。だってそこまでされたらなァ、あいつがそばで見張ってるしかないだろ？」 <br />
「君にそれができるか？」 <br />
<br />
「いくらお前らの愛が強くたって」 <br />
「言わなきゃ伝わらないよ。まずはそれからだ」 <br />
「テレパシーはないからさ」 <br />
<br />
「そんな目で訴えかけても無駄ってこと」]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/386/</link>
    <pubDate>Sun, 23 Apr 2017 17:35:11 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>愛されガール</title>
    <description>
    <![CDATA[夏だから海へ行きたいですと、言い出したのはサマリーだった。 <br />
青春にコンプレックスを抱えた女は、たまにこういうわけのわからないこじつけで、失われた青春を取り戻そうとする。巻き込まれる俺たち大人は、彼女の頭の中の病気に気付きながらもにこりと優しく微笑んで、海に行きたいのか、サマリー、君の好きなところに行こう、夏だもんな、などと同調してやることが彼女を満足させ、かつこの場を円満に納める方法であることを知っている。俺は良い子のサマリーがわがままを言うのを別段迷惑だとは思わないし、それぐらいのことで彼女をいちいちやり玉に挙げて、良い歳した女が海だと？だいたい海なんか行ったって良いことなんかひとつだってない、俺にメリットがあるのか？お前が満足するだけだろう、俺は忙しいんだ、一人で行ってこいだなんて、彼女の心を滅多刺しにするような器の小さい男でもない。サマリーがその大きな瞳で俺を見つめて返事を待つ３秒の間、その短い時間の半分を俺は回答を準備する時間に使い、残りの半分を彼女の瞳を見つめ返すのに使った。サマリー、君は不思議な子だな。どうしてこんなにもあの小娘と違うんだ。歳も、背格好も、君はあの小娘と変わらない。食べてるものだって大差ないはずだ。ペニーの作る飯を、二人で仲良く食べてるんだろう？　となればサマリー、俺は不思議に思わずにはいられない。あの忌々しいイージー・ベルは、なぜ、君みたいに人に好かれることができないんだろう。 <br />
<br />
「わかった」 <br />
<br />
俺がそう言うなり、えっと短い驚きの声をあげたのは、あろうことかサマリー本人だった。 <br />
「それって&hellip;」 <br />
眉間にしわを寄せて彼女は首をかしげ、俺を見つめ、口を開く。やはり失礼なやつだしわがままな女だ。行ってやると言ったんだ、短く繰り返せばサマリーは、その大きな瞳を必要以上に大きく見開いて、まばたきをもう一度繰り返した。それからうおーっと突然叫び出したかと思うと、大きくぴょんと飛び跳ねて、ペニーさん！やりましたー！！と店の奥へ走り出す。なんだ、おい、ペニー、お前らグルか。ため息をつきたくなるほど拍子抜けするような間抜けな彼女の歓声が店に響いて、俺は相変わらず頭のキレるこの店の店主の微笑みをついつい頭に浮かべてしまう。 <br />
<br />
<br />
サマリーの動きのひとつひとつを、イージーに見習わせようか。別に、あの子に愛しさを覚えているわけではないが、ただイージーがこういう動作を習得できたら、周りに不快感を与えないように生活してくれたら、と願う想いは切実なのだ。おおはしゃぎのサマリーがペニーの腕を掴んで店の奥から引きずり出し、彼女の細い腕に引きずられてきた店主もはいはいと彼女をなだめる。こういう状況を、俺はイージーに与えられず、ペニーの方はサマリーに与えられているわけだ。イージー・ベルが海に興味を持つかどうかなんて、考えなくたって、答えはノーに決まっているけれど。俺は疑問に思わずにはいられないのだ、イージー・ベルはなぜ、君のように愛されないのかと。なぜ君のように、幸せそうに笑うことができないのかと。 <br />
<br />
「ありがとうございますネッドさん！」 <br />
<br />
ああ、感謝される価値なんてない、俺は君に感謝されるに値しない <br />
ここに彼女はいない、サマリー、 <br />
<br />
ここに彼女はいないんだ]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/385/</link>
    <pubDate>Mon, 18 Jul 2016 15:21:17 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>Say Her Name</title>
    <description>
    <![CDATA[白々しい嘘を重ねるこの男にふさわしい罰が必要だと思いたったのは、日が昇る前の、一番暗い時間帯だった。ハチルは相変わらず人のことなど何にも考えていないような、無邪気でずうずうしい子供みたいな顔をしてすうすう眠っていて、わたしが一人ぼっちで寂しい夜に何度も何度も心のなかで彼の名前を呼んだことさえ知らないし、時にはどんなに祈っても朝には消える彼のことをすぐ隣で呪い続けていたことさえ知らないままだった。わたしがその額にキスを落とせば僅かにゆるく、微笑む、彼の間抜けな顔。大好き。だからわたしはこの男にふさわしい罰を一生懸命考えた。どんな手段で彼をこっぴどく泣かせてやろうか。暗闇に一人、取り残される気持ちを、じわじわ、闇に取り込まれてしまいそうな孤独と静寂を、彼も味わえばいい。怖いぞ、君が思っているより、一人ぼっちは遥かに怖い。世界のすべてが君を拒絶し、君の持っているすべてが取り上げられて、居場所がなくなる。思考は支配され、不安という悪魔が脳の後ろの方で小さく囁く、ここで何をしてる？　お前は要らない存在だ。無駄に生きてきたな。一体全体何をやってきたんだ。何かお前が、誰かの役に立つことがあったか？　成し遂げられたことは？　いつも逃げ続けて、自分のために生きてきたお前が、誰かに必要とされたいだなんて、おこがましいんだよ。なんてね。聞き飽きた劣等感の自己卑下のことばたち。わたしのおともだちなの。ほんとはさ、あなたが私の名前を呼んでくれれば、それでいいの。あなたのために存在してるって、思えれば、それでいいの。たったヒトコトでいいから、あなたの声で、あなたの口から、わたしの名前が滑り落ちてくる瞬間を見届けたいの。肌に触れて、寝息を立てる彼の口元に耳を寄せる。日が昇る前に、この唇が、名前を呼んでくれますように。くちづけた想いは、カーテンの隙間からするりと滑りこんだ眩しすぎる朝日に掻き消され、ゆらぐ泡になって、消えた。]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/384/</link>
    <pubDate>Sat, 09 Jan 2016 17:46:03 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>コントレックス</title>
    <description>
    <![CDATA[心がざわついて落ち着かない。なんだか酷く悲しい気分だ。嫌なことがあって、それがどんどん近づいてくる。寝なきゃいけないのに、不安で寝られない。心臓がドキドキする。心が焦る。変な汗をかいてる。最悪の気分だ。ひとりでいたくない。 <br />
<br />
「シシーは寝たの？」 <br />
「ハチルさん、起きてたんスか」 <br />
「まぁね&hellip;、転&hellip;」 <br />
「はい？」 <br />
「&hellip;」 <br />
<br />
言葉に詰まって彼を見た。本当は続きなんて用意してなかった。誰かに存在を認めて欲しかっただけだ。転は俺を少しの間見つめた後、退屈そうに視線をまた手元に落とした。転が手にしているのはペンで、何やらノートに書きつけているみたいだ。何してるの？と尋ねれば、彼は短く、計算を、と言った。 <br />
<br />
「シシーと暮らすために俺がしなければならない雑務のうちの一つっス」 <br />
「店の&hellip;？」 <br />
「そう」 <br />
<br />
転は経営者らしく、かけたメガネを退屈そうに指で押し上げた。俺は転と向き合うように椅子に座って、そのノートを反対側から眺めた。数字がたくさん並んでいるけど、転の顔は無表情のまま。この店って繁盛してるのか？気にしたこともなかったけど。転は相変わらず俺を無視してまたノートを見つめている。このときだけかける転のメガネは少し大人びた印象を与えて、なんだかデキる男みたいだ。中身はただのロリシスコンのままだけど。 <br />
「なぁ&hellip;」と俺が曖昧に声を出した瞬間に、その転は長い長い溜息をついた。それがあまりにも俺を責めるような溜息の付き方だったから、俺は小さく肩をすくめて、なんだよ、とモゴモゴ言った。 <br />
<br />
「ハチルさん気づいてないかもしれないっスけど、さっきから俺の邪魔してますよ」 <br />
「ええ&hellip;ごめん&hellip;」 <br />
「何か用っスか」 <br />
「いや、用ってほどのことじゃ&hellip;もう邪魔しないからさ」 <br />
「&hellip;&hellip;ったく&hellip;」 <br />
<br />
メガネ越し、レンズの向こうから転が俺を睨む。ごめんてば、と重ねて謝ってから、漸くまた視線をノートに戻した。頭使ってる時の転って恐いんだな。そりゃそうか、やらなければならない、ってことは、転にとっては一刻もはやく片付けたい雑務のうちの一つなんだろう。シシーのための、シシーとは関係のない雑務。再び暇になった俺は黙って転を眺める。店の財務管理。ツユキもやるのかな。電卓とかそばにおいて、皆が寝静まった頃に、一人でメガネかけたりして。邪魔したら、怒られるのかな。ぼんやりととりとめもなくそんなことを考えて、そこで初めてツユキのことを考えている自分に気がついて、顔をしかめた。転はノートばかりで俺のことは見てない。少しほっとして、なんでほっとするのか自分でも分からなくて、どことなく感じる居心地の悪さに頬杖をつく。転は真剣そうだ。俺のことなんか忘れてる。こいつはいつもシシーシシーで、それで、俺のことは利用できるモンスターぐらいにしか思ってないだろう。利用できるモンスター。実際それほど役に立ってるわけでもないけどな。 <br />
<br />
俺が知らない転は、なんだか普段よりしっかりしていて、頼りがいのある人間に見えた。黙っている間は人をばかにするような発言もないし、長い襟足は一纏めに括られていて、近寄りがたい見た目もわりと緩和されているように思える。髪を結ぶだけで印象って結構変わるんだな。お前結構髪の毛長いよなあとつぶやこうとして、また睨まれる前に開きかけた口をつぐんだ。ツユキなら睨んだりされても可愛いもんだけど、転はちょっとな。 <br />
<br />
すこしたったあと、転がメガネを外してノートを閉じ、立ち上がって、「何か飲みます？」と短く言ったので、俺はその小難しい作業が終わったのだと分かった。俺は首を振って断り、転はキッチンからペットボトルをもってくる。ミネラルウォーター。分かってた。転はいつも水ばっかりだ。シシーのためには何時間だって手をかけるくせに、自分のために手をかかることはあまりしない。ましてやシシー以外の誰かのためにミルクティーを淹れることなど決して無い。そういう男。 <br />
<br />
「どのタイミングでするのかなって思ってたのに」 <br />
<br />
と、ふいに転がつぶやいた。水を飲む転の喉を見つめていた俺は彼の言葉を全然聴いていなくて、え？と曖昧に言葉を返す。ボトルを置いた転が、唇を手の甲で拭いた。 <br />
<br />
「ツユキくんのこと考えてたんでしょ」 <br />
<br />
乱暴にそう言って、俺を見る。図星でしょ。と繰り返され、俺は驚いて目を丸くした。転は笑ってもいなければ驚いてもいない。呆れたような、バカにしたような、憐れむような、それでいてどこか寂しそうな、いつもの表情。俺が幸せな気分でいるとき、たまにコイツはそういう顔をする。だから俺はいつも混乱して、転のことがよく分からなくなる。なんでツユキが出てくるんだ。そんなの、俺の勝手だろ。何でお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ。文句を言おうと口を開けば、転は俺の服の襟を掴んで引き寄せた。すぐそばまで近づいた距離で、消えそうなほど低い声で、忌々しそうに彼は言う。 <br />
<br />
「間抜けな顔しやがって。しっかりしろよ」 <br />
<br />
一瞬、全てが止まる。思考も、呼吸も、静止して、俺は転を見上げ、転は俺を見下ろした。次に何が起こるか、誰も知らなかった。俺は固まったまま、転が俺にキスをしたその瞬間も混乱したままだった。 <br />
<br />
「しっかりしてくださいね」 <br />
<br />
転は俺の頬を軽く叩いて、それからすっと身を引く。俺が漸くまばたきをし、口を開こうとした時、彼は何事もなかったかのようにあくびをして、それから俺を見た。 <br />
<br />
「俺もう寝ますから。ハチルさんは？泊まってくんでしょ」 <br />
「え？あ&hellip;あぁ&hellip;」 <br />
<br />
今のは何だったんだとか、どういうつもりだとか、聞きたいことはたくさんあったのに、口からこぼれたのは気の抜けるような返事で、我ながら恥ずかしくなる。それでも何故かそれを聞いた転は愉快そうに鼻で笑って、俺シシーと寝るから俺のベッド使っていいですよ。おやすみなさい。とドアの向こうに消えた。一人、部屋に残された俺は混乱したまま。恐る恐る唇を舐めれば、さっき転が飲んでいた、ミネラルウォーターの味がした。]]>
    </description>
    <category>うちのこ</category>
    <link>https://cack.ni-3.net/Entry/383/</link>
    <pubDate>Sun, 18 Oct 2015 17:54:33 GMT</pubDate>
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